絶滅危惧種・オン・チップ
ジャイアントパンダ、シロナガスクジラ、スマトラトラ、ユキヒョウ。地球に存在する美しい生き物たちのある種は絶滅の危機に瀕しています。もしこの動物たちが一度絶滅してしまうと、地球上からは永遠に姿を消すことを意味します。そして今3000種類以上の動物が、絶滅危惧種の国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されています。ここでiCeMSでは、これらのかけがえのない生物たちを保護する革新的な実験システムを作るために超バイオマテリアルを使用することを提案します。
世界の自然保護者たちが直面している重要な問題の一つは、定義的にも絶滅の恐れがある種は希少であるため、治療薬を開発するための十分なモデルが存在せず、病気や負傷している動物の治療薬や救命薬を開発するのは殆ど不可能です。これは致命的で深刻なサイクルです。動物の希少性は薬の種を限定し、さらにその薬の少なさによりさらに動物の数は減少してしまうのです。
私たちはこの現状に対して解決策があると信じています。
iCeMSの研究室では、最も繊細で希少な生物をも安全に治療する新薬や治療法をテストする革新的なツールの開発をしています。絶滅を阻止するために用いる主な手段は「iPS細胞」と「マイクロ技術」の2つの最先端技術です。
画期的なiPS細胞技術は、もともとノーベル賞受賞者の山中伸弥教授(現在京都大学iPS研究所所長)によって発見されました。簡単に言えばiPS細胞は体内のあらゆる種類の細胞で必要な組織や器官を作成することができます。従って、絶滅危惧種の恐れが高い動物から最小の毛または血液を得ることができれば、私たちはiPS細胞を単離し、それらを用いることによって、特異的で信頼性が高く、安価で効果的な実験モデルを開発して救命薬を開発することができます。これは潜在的に動物の救命に革命をもたらす分野であり、私たちはその研究分野の最前線にいます。
私たちは生物学者であると同時にエンジニアです。21世紀における意味では、作業着とレンチを白衣と顕微鏡に取り換えたといったところでしょうか。マイクロ技術を用いれば、花粉粒並みの大きさの洗練されたデバイスを作成することができてしまいます。このようにして実際の動物や人の体内を模倣した環境で細胞が増殖できるミニチュアを創り出します。このデバイスは’Body on a Chip’ (BoC)と呼ばれています。
私たちのiPS細胞技術と組み合わせることで、血液循環からならびに動物に特異的なiPS細胞から得られた複数種の組織細胞を用いて、多くのバージョンのBoCを開発することができます。これらのモデルは、動物のためだけではなく、人間のためにも新しい薬物と治療法を創造することを可能にします。さらにBoC開発の進展を促進するため、幹細胞研究、マイクロナノテクノロジー、物性物理学を統合した学際的アプローチを提案しようと思います。これはまさにiCeMSが大きく貢献できるものなのです。